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2026.06.21

コラム

ハイエステルラムとBAGASSE MACERATION™️

ハイエステルラムとは

ラムを漁りながら色々飲んで行くとポツリポツリと聞こえてくる「ハイエステル」と言うワード。

エステルとは、様々な有機酸がエタノールと結合して生まれる成分で、フルーツの香りに喩えられたりするお酒の香気においてとても重要な要素でもあります。

お酒のジャンルによって必要とされたり、邪魔者にされたりとなかなかに不可思議なモノではあるんですが、ラムにおいてはとても重要視されており、そのエステルを極限に高めたものがハイエステルラムと呼ばれるタイプになります。

近年人気が高まるこのハイエステルラムは、ジャマイカを中心とした一部の蒸留所が、それぞれ秘伝の方法で個性溢れる原酒を製造していますが、一般的に蒸留した後の廃液を貯めて、その中に有機酸や微生物を生み出した「ダンダー」などと言われる液体を作り、発酵するラムのもろみに加えることでエステルを生成する方法が知られています。

BOSO Rhum Mer-海- Cuvée Spéciale ESTERY2024

ペナシュール房総では、自社独自農法のサトウキビから造るアグリコールラムと双極でこのハイエステルラムの研究を創業時から行っており、上記のダンダー製法で造られた日本初のハイエステルラムが、「BOSO Rhum Mer-海- Cuvée Spéciale ESTERY2024」です。

ESTERY2024は、酢酸系のエステルを多く含むタイプであり、刺激的な香りがTOPにある為にバーボンカスクで3ヶ月ほど熟成してからボトリングしました。
この熟成に使用した樽は、三郎丸蒸留所との樽交換により、現在は三郎丸蒸留所でウイスキーの熟成に使用していただいています。

千葉大学園芸学部微生物工学研究室 天知誠吾教授との共同研究開始

なんとかハイエステルと呼べるラムを造ることはできたものの、アルコール収量や生成されるエステルの不安定などの問題があったのと、本来の目的である「日本独自のハイエステルラムを造る」という目標に対して自社の知見や研究では先が見えない状況を感じ、千葉大学の産学連携の窓口に共同研究の申し込みをしました。

そこで繋いでいただいたのが、千葉大学園芸学部で微生物工学を研究している天知誠吾教授。
天知さんは言って良いのかわかりませんが、初めてお会いしたオンライン相談で研究室から様々なラムを出してくるほどの無類の愛酒家で、相談から即日に房総大井倉蒸溜所に来てくれて、さらにちどり別館のBARで2人で飲んだくれて、それを起点に弊社のハイエステル研究が再スタートしました。

まず千葉大学ではガスクロマトグラフ質量分析計(GS/MS)で、ESTERY2024と他メーカーのハイエステルラムの香気成分を分析・比較。
ESTERY2024が酢酸エチル特化になっていて、他メーカーのラムに比べて含まれるエステルの種類が少ないことが明確になりました。
但し、これはこれで魅力的なラムでもあり、個人的にも今なお愛飲しています。

そもそもジャマイカで使用されるダンダーを育てるピット(貯水槽)が大規模且つ積み重ねた年月や気候によって様々な微生物や有機酸を生み出していると言うのが僕の仮説で、これをどのように弊社で運用可能な小規模設計にできるかを考えて採用したのが、古代の日本酒の製法で行われていた「水酛(みずもと)」の応用でした。
ここにはぷくぷく醸造のてっちゃんにも協力をいただいてます。

水酛ラムは、原材料となるモラセス(糖蜜)を溶く仕込水に様々な有機酸を生成してからラムもろみを仕込み、酵母で発酵させるという手法で、試験を重ねる内に次第にESTERY2024にはないフルーティなエステルができていたのですが、エステル化しきれない有機酸が残ってしまいオフフレーバーもまた多く出てしまうと言う課題が残っていました。

偶然から生まれたオリジナルハイエステル製法

話が少し逸れますが、水酛ラムを研究している時期に弊社が抱えていた問題としてトラディショナルラムである「BOSO Rhum Fleur-花-」の原材料として使わせていただいていた特別仕様の国産モラセスが製造中止になり、仕様変更を余儀なくされていた件がありました。

変更後の新しいモラセスはとても素直で綺麗な味わいで、ラムとしてもクリアでクセのない酒質でしたが、従来のFleurの個性的なものとは対極なタイプとなりました。

このモラセスを使ってBOSOらしい個性的なFleurを造りたいと考えて採用したのが、以前からテストしていたサトウキビの搾りかすである「バガス」を原材料のひとつとして使用しトラディショナルラムに自社サトウキビのテロワールを加えるという手法でした。

テストでは、従来Fleurとは異なるどっしりとした性格のラムになることがわかっていて、あとはブランドのレギュラーラムとして通年製造する為、すぐに変質してしまうバガスをどの様に保存するかが課題でした。
思いつく限りのいろいろな方法で保管を試していた中、水酛ラムの開発がひと段落したので、そのバガス使用ラムの試作に取りかかろうと保管していたバガスを確認したところ、その内のひとつのものから強いエステル香が生まれていたんです。

驚きのまますぐさま千葉大学の天知さんに電話をして、状況を説明すると、翌日現地でサンプル採取をして分析が始まりました。
数日のちにわかったことは、バガスに住んでいる酵母の中に有機酸を生成する能力が高いものがいて一定条件下に置くことで、その酵母が優位に増殖して有機酸を生みながらエステルを生成しているというメカニズムでした。

水酛でやってきたことと、この新たな発見を融合しながら試験をひたすら繰り返すと多種なエステルを含む原酒を高確率で造ることができるようになりました。

ただ生まれるエステルの中には強すぎるとオフフレーバーに感じられるものも多々あり、この製法が使い方次第で良い方向になることもあれば悪い方向に振られてしまうこともあることもわかってきました。

BAGASSE MACERATIONのリリースと今後

将来的な目標としては、この製法を日本発のハイエステルラム製法として、弊社だけではなく他のラムメーカーさんにも共有して世界に広めて行きたいと考えていますが、まずはある程度製法を確立してオリジナリティのあるジャパニーズハイエステルラムを確実に造れる様にすべきと思い、「BAGASSE MACERATION(バガスマセラシオン)」と名付けて商標登録と特許申請を行いました。

昨年の試作で生まれた原酒は、ステンレスタンクに8ヶ月保管することでエステルがまとまって来たので、もうすぐMer-海-カテゴリーとして初リリースとなります。

またFleur-花-は、従来のトラディショナルラムカテゴリーを変更して、新しい糖蜜から生まれた原酒をベースにSoleil-太陽-とBAGASSE MACERATIONをブレンドすることで、テロワールを含んだハウスブレンド「ASSEMBLAGE MAISON」として生まれ変わりました。

今期も夏ごろにまたBAGASSE MACERATIONの仕込みを開始しますが、昨年より規模を拡大してより良いものになるように研究を深化させるアイデアや計画が盛りだくさんです。

好みが分かれるクセの強いラムですが、ハマる人はハマると思いますので、まずはBAGASSE MACERATION2026をぜひお試しいただき、日本のラムの未来を感じていただけたら幸いです。
そして日本発のハイエステルラム「BAGASSE MACERATION」の進化をできるだけたくさんのお酒ファンの皆さまと共有しながら進めていけたら嬉しいです。

もちろん樽熟成もしてますので、こちらもご期待ください!